イスラエル・イラン“6日戦争”はなぜ起こったのか? 見過ごされがちな宗教的・歴史的要因と、トランプとイランの最大のディールとは【中田考】
イスラエル・イラン戦争を理解するために。トランプによる「強引な停戦」は今後どうなるか?

4. ユダヤ人とイランの深い関係
イランには2,500年にわたるユダヤ人の居住の歴史があります。ユダヤ教の形成過程において、アケメネス朝ペルシャのキュロス2世が果たした役割は極めて重要です。彼は、紀元前6世紀にユダヤ人をバビロン捕囚から解放し、エルサレム神殿の再建を認めました。この功績により、キュロス王は旧約聖書では異教徒であるにもかかわらず「メシア(油注がれし者)」と称されています。
キュロスの宗教的寛容政策のもと、ユダヤ人たちは律法(トーラー)を編纂し、共同体の社会規範として確立していきました。このような歴史的背景により、ユダヤ人にとって必ずしもイスラエルに住むことが本質なのではなく、多民族国家の中で寄留民(ger)として生きることこそが伝統であったと考えられます。実際、キュロスによって解放された後も、すべてのユダヤ人がエルサレムに帰還したわけではなく、多くはイラン(ペルシャ)にとどまり、今日まで存続するイラン系ユダヤ人共同体となっています。
5. イスラーム体制下でのユダヤ人の存在
イスラーム革命後も、イラン国内のユダヤ人は迫害されることなく、一定の自治と文化的活動を維持しています。テヘランには現在も数千人のユダヤ人が居住しており、国会にはユダヤ人枠の議員も存在しています。このような状況を踏まえると、イランが掲げる「イスラエルに死を」というスローガンは、ユダヤ教やユダヤ人そのものに向けられているのではなく、現代の世俗国家イスラエルと、それを支えるシオニズムに対する政治的・宗教的批判であることが理解できます。
こうした歴史を考えると、真にユダヤ教的に生きるとは、寄留民として律法(トーラー)に従い、多民族国家の中で自治を認められる形が理想であり、イラン・イスラーム共和国はそれを体現しており、現代のイスラエル国家は、むしろトーラーに反する世俗国家であるということになります。
6. イスラエル内のイラン系ユダヤ人
逆に現在のイスラエルには、20〜25万人のイラン系ユダヤ人が暮らしており、その中には国の中枢を担う人物も含まれています。たとえば、第8代大統領のモシェ・カツァヴ氏や元国防相シャウル・モファズ氏はイラン出身であり、イスラエル建国後に移住しました。また、平和活動家のエビ・ナタン氏のように、パレスチナとの和平を訴える人物も存在しました。
これらの人物は、ディアスポラ的伝統とイスラエル国家への貢献という両面を象徴しており、イランとイスラエルの関係が単純な敵対関係には収まらないことを示しています。
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